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『霧のコミューン』(今福龍太、みすず書房、2024年)
 予兆のなかに希望を見出し、露呈から身を守り、柔らかい「共-接触」を希求する精神共同体。《「霧のコミューン」は現実の場というより心の拠点であり、「生」を紡ぐための意識の拠点である。それはたんなる「生活」の拠点を超えるものである。それは隠された生の可能性がゆらぎながら生成する場であり、来るべき生のいくつもの準拠点である。ささやかで柔らかな「世直し」の決意である。(…)この本は、異邦への旅の朝靄のなかから現われた細部の風景を描くささやかな日記から始まり、ヒロシマ・ナガサキの記憶の霧へ、アラブ民衆世界や沖縄のシマジマから聞こえるくぐもった声のざわめきへ、年若き者たちによる黙示録的な叛乱へ、戦火のかなたで閃く人間の意志の熾火へ、そして生成の奥底に秘められた予兆の風景へと歩みを進めて行くことになった。手紙という呼びかけの形式が多用されているのも、見えざるものたちとの呼応を希求する心ゆえである。》(緒言)
 戦争、パンデミック、気候変動、テクノロジーの暴走といった災禍に染められた現代社会へのエッセンシャルな批評から出発しつつ、荒れ果てた風景の彼方に広がる真の人間性の場を探究しようとした著者の思索のはるかな到達点。狭霧のなかで抵抗の力をためる、日々の心のコミューンへの熱きいざないの書。

みすず書房サイト
https://www.msz.co.jp/book/detail/09712/

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今福龍太 いまふくりゅうた

文化人類学者・批評家。クレオール文化論・群島論研究の第一人者。

2002年より奄美・沖縄・台湾を結ぶ遊動型の野外学舎「奄美自由大学」を主宰し、唄者・吟遊詩人として活動。メキシコ、カリブ海、アメリカ南西部、ブラジル、奄美・沖縄群島などで広範なフィールドワークを行う。国内外の大学で教鞭をとり、2000年にはサンパウロ大学客員教授、2003年にはサンパウロ・カトリック大学客員教授などを歴任。2017年『ヘンリー・ソロー 野生の学舎』(みすず書房)により読売文学賞受賞。2020年には『宮沢賢治 デクノボーの叡知』(新潮選書)により宮沢賢治賞および角川財団学芸賞を受賞。主著『クレオール主義』『群島-世界論』を含む著作集《パルティータ》(全5巻、水声社)が2018年に完結。

『見晴らしのよい時間』(川瀬慈、赤々舎、2024)
パンデミックや戦渦の時代 ──足を止め、耳を澄まし、向かい合う、見晴らしのよい時間。イメージの生命と共振し、すべての境界が融解した場所に立つ。遠く離れた旅に出遭う人々の在りよう、周縁にも想いを凝らし、存在の痛苦、創造性、したたかさを抱き込みながら、その交感から立ち上がる詩を、映像や文章として作品にしてきた映像人類学者 川瀬慈。本書は、長く続いたパンデミックの時代に、気ぜわしい日常のなかで希薄になりつつあった"イメージの生命"とのつながりを再び確かめ、その聖域の奥へ奥へとイマジネーションの潜行を試みることから生まれた。日々の営みのあちこちにその入り口を持ちながら、人が太古より祈りや歌を通しても交流を重ねてきた、見えるものと見えないものの真ん中に息づくその場所へ。洞窟壁画を模写した水彩画、歌、エチオピア移民のコミュニティ、イタリア軍古写真との遭遇…イメージの還流に揺さぶられながら、著者の野生のまなざしは、見晴らしのよい時間へと通貫していく。ちりばめられたイメージの神話の種子に、平松麻氏による挿画も息を吹き込む。イメージの生命と共振しながら、この時代にさらなる歩行を促す、祈りと生命の兆したち。 
 
「イメージは生きている。私の内側の感覚や記憶と溶融し、様々なかたちで世界にあらわれ出ていく。それはまた、あなたのまなざしや息吹を受け、新たに芽生え、時空を超え、自らの生命をはてしなく拡張させていく。(前書きより)


以上、赤々舎ウェブサイトより


赤々舎サイト
https://www.akaaka.com/publishing/KAWASE-Itsushi.html

川瀬慈 かわせいつし

映像人類学者。国立民族学博物館・総合研究大学院大学教授。エチオピアの吟遊詩人の人類学研究を行う。主著に『ストリートの精霊たち』(世界思想社、2018年、鉄犬ヘテロトピア文学賞)、『エチオピア高原の吟遊詩人 うたに生きる者たち』(音楽之友社、2020年、サントリー学芸賞、梅棹忠夫・山と探検文学賞)、『叡智の鳥』(Tombac/インスクリプト、2021年)。客員教授としてハンブルグ大学(2013年)、ブレーメン大学(2014年、2016年)、山東大学(2016年)、アジスアベバ大学(2018年)等で教鞭をとる。

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